残響 東方プログレッシヴ・ロック合同

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(2016/05 例大祭13発行、表紙 水田ケンジさん(AQUARIA MUSICS))

 

 合同誌にはディレクションの強いものと弱いものがあり、このグラデーションは読み手から見た作品の統一性の強弱、書き手(特にビギナー)にとっての福祉の範囲の弱強をそれぞれ大まかに規定します。それらの総合がコミュニティに対して還元する影響の質と量と部位を決定します。

 この本は前者です。たぶん僕には前者しかできません。後者の健全な運営には巨大な博愛精神と鷹揚さが必要だからです。

 このことを考える上では、そもそも僕たちは書き手と読み手とコミュニティ成員という3つの立場を常に並行しつつ往復していることを理解しなければならないでしょう。自分がどの立場から話をしているのか混同したまま進んだ場合、問題に突き当たらずにすむのはひどく困難です。

 また、ディレクションにも3つの段階があります。枠組みの設定と人の集め方と制作上の擦り合わせです。3つ目において僕はほとんど何もしませんでした。僕はただ原稿を誰よりも楽しみにしている第一の読者として待つだけで良かったし、実際にそれは満たされました。そういう幸福がそう頻繁に生じるものではないということを知っています。良い物になったのはひとえに参加者の理解と熱意のおかげです。関わってくださった皆さまに改めて心から感謝します。

 

1.「科学世紀のスキッツォイド・レディー」 藍田真琴さん

 扱う題材のみならず、振り切れ方そのものが「21st Century Schizoid Man」だという強烈なオープナー。「まってく獺祭」は今でも獺祭を見るたびに思い出して笑ってしまいます。

2.「狂奔」 あさぎさん

 「Money」に焦点を当てた一作。金がなくなるという不安につけ込んで金を巻き上げる河童たちへのシニカルなまなざしが正調鈴奈庵節。

3.「楽園へ向かうツール」

 ここで主催は、メインストリームではなかったけれど一瞬大きな光を放ったある若く無軌道な共同体に寄せて、遙か昔にメインストリームから外れたプログレそのものと東方そのものとあともう一つ幾分我々に近い話をすべきだろうということです。

4.「Ghostron of Years」 柊正午さん

 「異常な行動さえしなければ」という但し書きで括られた自由だけが、まだ人間に博物誌を運転する余地を残してくれる。シンギュラリティの先には魔術、言い換えれば脅威としての自然の復権があるということです。恐らくは。

5.「銀色の残光」 Pumpkinさん

 アクロバティックでありながらエモーショナルだという二次創作の一つの究極だと思います。あまりにも完璧です。